Column コラム

日本の若者は音楽を聴かないのか?

「CD不況」や「若者の音楽離れ」という言葉が珍しくはなくなってしまいました。実際にCDは売れず、アーティストやレーベルにとって苦しい時代であることは間違いありません。その一方でライブ,コンサートの動員数が増え、音楽を作るアーティストの数も増えていることも事実です。

音楽離れが本当なら若者は音楽を聴かなくなり、作る側の人数も減っているはず。その増減を知る指標は今やCDの売り上げだけではなくなっています。

この問題を若者の音楽の聴き方の変化と、アーティストの出発点であるインディーズシーンに注目しながら考えていきます!

現在の音楽業界とCD不況

1990年代の「CDバブル」とも言える時代が終わり、次に到来したのは「CD不況」の時代です。CDの生産額がピークを迎えていた1998年には約4924億円というデータが残っています。2015年の生産額が約1384億円であることと比べるとピーク時の3分の1以下にも下がっていることがわかりますね。

 

このCD不況の背景には音楽の聴き方の多様化が見られます。

  1. インターネットの普及とYouTube
  2. iPod・WALKMANで音楽を持ち歩く
  3. CDレンタル・ショップ
  4. 音源の違法ダウンロードとコピー
  5. 定額制音楽配信サービス

この5つが主な原因だと思います。

 

まずインターネットの普及とともにYouTubeのような動画配信サイトで音楽を聴くことができるようになりました。またiPodやWALKMANの普及によって音楽が手軽に持ち歩かれるようになります。その中には自分で買ったCDではなくレンタル・ショップで借りたCDの音源がデータとして取り込まれ、さらには違法ダウンロード、友人が買ったり借りたりしたCDの音源も簡単にデータ化して入れることができます。

2000年代前半のメジャーシーンでは、CDを容易にデータ化できないように、”コピー防止機能”が搭載されたCCCD(コピーコントロールCD)で音源をリリースしていました。しかし、ほんの少しの期間だけ採用されただけで、普及することなくすぐに衰退しました。
既にそのころには、音楽はデータ化してパソコンに取り込んで聴くことが当たり前のようになっていたわけですね。
それから約15年経ち、誰もが持っているスマートフォンにも音楽を入れて聴けるようになり、今度は携帯音楽プレイヤー自体が衰退しています。
潜在的な音楽ユーザーが爆発的に増えたとも考えることができます。

そんな時代の流れを後押しするように、最近ではApple MusicやSpotifyのような定額制音楽配信サービスも台頭してきています。「音源さえあればいい」と考える若者が増えていることは間違いないでしょう。

岡崎体育から見る現在の音楽の発展

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CDが売れなくなり資金源を失ったメジャーレーベルは、アーティストを守る力を失いつつあります。アーティストにとってメジャーデビューすることは昔ほど魅力的には見えなくなったことでしょう。

さらに今はデジタル化により、レコーディングが以前より手軽に低コストでできるようになりました。インディーズシーンでは特にセルフレコーディングをしているアーティストも多いと思います。最近注目された岡崎体育がそれをうまく活用しています。

 

彼が注目されているのは楽曲の素晴らしさだけではありません。あの楽曲たちが彼の自宅の、普通の部屋から生まれていることに世間が驚いているのです。いわゆる「宅録」という方法です。岡崎体育はパソコンを使って自宅で曲を作り、宣伝はTwitterのようなSNSを使ってブレイクしました。

岡崎体育の売れ方からわかるように、大きなレーベルを通さずとも低コストで楽曲を制作し、宣伝して売り出す手段が誰にでも与えられているということなのです。

夏フェスから始まったライブ盛況の時代

CDが売れないこととは対照的にライブの動員数が増えていることも現在の音楽業界に起きた大きな変化です。1997年に日本の夏フェスの先駆者である『FUJI ROCK FESTIVAL』がスタートしました。それ以降フェスの数が増えていき、大型フェスに行くことは聴き手にとって一大イベントとなっています。

 

この現象については多くの人が考察をしていますが、筆者が興味深いと思った考察はこちらです。

最近では「CDや音楽配信という形で音源は購入しないけどライブには行く」という音楽好きの若年層も増えています。デジタル技術やインターネットの普及により、音楽は手軽にコピーして楽しむことが可能になりました。音源はコピーで済ませることができるようになった分、ライブのようにコピーができない「体験」に音楽ファンがお金を払うようになっているという分析もできるでしょう。

参考:津田大介/牧村憲一『未来型サバイバル音楽論 USTREAM、twitterは何を変えたのか』

 

フェスは音楽以外にも食べ物やアウトドアを楽しめるイベントなど、その場に行くこと自体が楽しみになっています。夏に海や花火大会に行くことと同じような価値を持ち始めているのです。ライブではアーティストや同じ趣味のファンとの一体感が味わえ、それはすべてその場に行かないと楽しめない「体験」でもあります。

 

ここで言う"一体感"の中にはライブを一緒に作り上げている感覚が大きく含まれています。その感覚はライブの規模が小さくなるほど強くなるもの。それが現在のインディーズまたはインディーズの雰囲気を残すメジャーバンドの流行の理由になっていると考えられるでしょう。

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「インディーズ」というジャンル

まだ売れていないバンドがライブをし始めたときには10人単位からファンを集めていかなければいけません。

もしあなたがその最初の10人のうちの1人だったら。バンドが地道に人気を集め、ライブに来る客が100人、1000人と増えていけばファンは喜びとともに「自分たちファンがバンドを育てた」という感覚になりますよね。

また小さいライブハウスではステージとの距離が近いためバンドの熱量がより伝わり、そこに魅力を感じるファンは多いはずです。

まだ広く知られていないバンドをいち早く見つけ、友人に勧めたりライブに行ったりし、その中でバンドが成長していくことを一緒になって喜ぶ。そこまで「体験」できることがインディーズシーンの流行の原因といえます。

 

最近ではメジャーシーンでもアンダーグラウンドな雰囲気を持つバンドがよく見られます。インディーズシーンが注目されている何よりの証拠ですね。今やインディーズは1つのジャンルとして確立されてきたといっても過言ではありません。

かつてメジャーに進出するためのステップでしかなかったインディーズシーンは選んで留まる場所になり、その姿勢がメジャーに進出することになっています。「J-Pop」や「J-Rock」に並ぶ「J-Indie」という未だ目に見えないジャンルはそこに存在しているのです。

日本の若者は音楽を聴かないのか?

さて、最後にこの問題に立ち返りましょう。

このCDが売れない時代に絶望し、音楽をやめてしまう人など聞いたことがありません。むしろインディーズにとってはインターネットの普及によって以前よりはるかに知名度を上げる機会が増え、技術の進歩によって曲を売り出すまでの障害は減っています。音楽が始めやすい時代へ変わったのです。

 

音楽を聴くツールも変化していますが、そのツールは若者にとって日常的に使っているものになっています。CD不況と若者の音楽離れは全く別の指標へ変わり、音楽を聴くか聴かないかは数字に表れるものではなくなったともいえるでしょう。数字も含めた音楽業態全体の流れを総合的に判断しなければいけなくなったということです。

大きなテーマにしてきた「若者の音楽離れは事実なのか」という問いに、事実だということはできません。


インディーズを軸に考察を展開してきましたが、皆さんはどう感じましたか?

最近はレコードブームが再燃したりと、音楽業界の盛衰は流動的なものです。しかしそれはどこにでも可能性が落ちているということでもあります。

「体験」に価値を見出すということも、CDだけではなく出版不況にも通じているように思えます。

 

若者が自由にできることが増えた時代のこれからの音楽業界は嘆かれるものではなく、希望にあふれた、可能性の大きく広がった世界になっているということでしょう。

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