バンドデビューと年齢の関係性について
世の中には大人気バンドを目指して、日々音楽活動を頑張っているバンドが沢山います。
聴く人に元気を与える楽曲、大勢の観客を盛り上げるパフォーマンスを持つメジャー・アーティストと遜色ないグループも多いですが、いつの間にかある日突然解散してしまう。そんなケースは珍しくありません。
そこには音楽性の違い、仲違い、メンバーの結婚や就職、病気・・・など様々な理由があると思います。
その中でも「年齢」を理由にメジャーを諦め、解散の道を選ぶ人たちも少なくありません。
バンドマンが「~歳までにデビュー出来なかったら諦める。」といった約束を周囲としている、といったことも言われています。
では、実際のところ年齢とデビューの関係性はどんなものなのでしょうか?
メジャーを目指すミュージシャンにとってはシビアな問題に切り込んでいきます。
年齢で諦めてしまう理由
音楽シーン、特にJ-POPや邦楽ロックのシーンにおいては、若くしてスターになったミュージシャンやアイドルが持て囃される風潮にあります。
いまや学生をやりつつメジャーデビューを果たすバンドは珍しくありませんし、ロー・ティーンながら大人顔負けの存在感のあるアイドルも話題になったりします。
その流れの中で、いつしか「ロック・ポップスは若い人の物」という価値観が出来上がり、それが音楽を提供する側にも影響しているのかもしれません。
・・・と、いうのは少々飛躍した話で、本当はもっと実生活に根差した問題なのです。
まず第一に「世間の目」があります。
例えば、二十代半ばでライブの動員やCDの売り上げに伸び悩むバンドマンが居るとしましょう。
年齢的にも、周囲からは結婚した、子供が生まれた、出世した、家買った、なんて話が聞こえてくる頃です。たまに実家に帰れば親からも「●●君のところ2人目出来たってね~」などと聞かされる。
そんな時は鬱陶しく思う反面、自分も「早く孫の顔を見せてやりたい、でも現実的にまだ難しい・・・。」と家族に対して一種の後ろめたさが生まれてしまいます。デビューしたい気持ちと現実の間で葛藤することになるのです。
そうやって周りが人生の転換期を迎える中、自分の状況を省みた時に周囲から取り残された気分になってしまうものです。
実際、周りはそんなに他人のことは気にしていない世の中なのですが、必要以上に自分の年齢を気にし始め、置かれている状況に疑問を持ち、自分の音楽や行く末を信じられなくなり音楽を辞めてしまう・・・。そんなケースは山ほどあります。
インディーズ界隈では、メンバーが失踪して、見つかったときにはもう就職していた…という話はよくある話ですね。
また、年齢を追うごとに「正社員」として就職するハードルが高くなっていきます。
特に、バンドの実務(営業、宣伝、お金の管理)は人に任せて演奏することしかしてないタイプのミュージシャンにとっては経験的にゼロからのスタートになるので、さらに難易度が上がります。
働き方の幅が広がった現代社会でもやはり正社員の安定ぶりは魅力で、そちらに舵を切るために音楽を諦める人たちも多いですね。
そして、加齢によって生じる「衰え」も関係してきます。
体力的には、特に鍛えてなければ10代・20代前半よりも確実に衰えていきます。
数時間のスタジオ練習でも疲れを感じるようになり、普段のライブは勿論遠征でもすれば以前よりも格段にスタミナ不足を感じるでしょう。
またルックスを売りにしているバンドであれば、見た目を維持する労力が必要になってきます。
こうした事が重なり合えば心身ともに音楽に向かう余裕がなくなるのかもしれません。
このように、「年齢」がネックとなりメジャーデビュー、延いては音楽活動自体を諦めてしまう例が過去も現在も山積しているのです。
遅咲きでデビューした人たち
そういった年齢の壁を乗り越えてメジャーデビューを果たし、第一線で活躍したり世に名を残すミュージシャンもいます。そんな方々を少し紹介します。
押尾コータロー
いまや、卓越した演奏テクニックと表現力で日本を代表するギタリストとなった押尾コータロー。彼がメジャーデビューをした年齢は34歳でした。
東京で音楽専門学校を卒業後バンド活動(この時はベースとして)をしますが解散。
地元・大阪に戻り音楽活動を続けるも地道な活動でメンバーも辞めていったそうです。
しかし、ソロギタリストに転身。焦らずに自分の音楽と向き合い、自主制作の曲がラジオ番組で紹介されたのをきっかけに知名度が上昇。ほどなくしてメジャーデビューを果たしました。
クレイジーケンバンド 横山剣
「いーね!」の決めゼリフでお馴染みのクレイジーケンバンドのVo.横山剣。
中学時代から音楽活動に励み、一時は「クールスRC」のメンバーとしてデビューするも脱退。
その後は貿易関係の会社で働きながらも職業作曲家としての活動、自身のバンドでのライブ活動を行い、音楽を続けます。
97年にクレイジーケンバンドを結成し翌年にデビュー。この時、横山剣は41歳でした。
その後、「タイガー&ドラゴン」などのヒットでお茶の間にも知られる存在になっていきました。
ソロとしての活動はなんと35年!日本の音楽業界に多大な貢献をしている人物でもあります。
Dragon Ash IKUZONE
2012年に急逝したDragon AshのベーシストIKUZONE(馬場育三)。
元々はヴィジュアル系バンド「VIRUS」で活動、インディーズシーンで人気を誇っていましたが、メジャーデビューすることなく解散。
その後、時を経て30歳でDragon Ashのオーディションを受け合格。ちなみに、オーディションは年齢をサバを読んで受けたという笑えるエピソードが残っています。
以降、最年長として独特のプレイと奇抜なスタイルでバンドを牽引していました
クリープハイプ
今やサブカル女子たちの間で不動の人気を誇るバンドですね、
そのフロントマン、尾崎世界観が2001年に結成したバンドがクリープハイプです。
活動開始から11年の時を経て、2012年に”死ぬまで一生愛されてると思ってたよ”でメジャーデビュー。
この時、尾崎世界観は28歳で、遅咲きのデビューと言われていました。
「年齢」の問題かどうか
上に挙げた以外にも、遅咲きのミュージシャンは沢山います。
そういった方々が同じ人間として存在する中、果たして「年齢」というものはデビューの条件に関係するのでしょうか?
確かに若いほどミュージシャンとしての「付加価値」は上がるでしょう。
それに遅咲きのミュージシャンは運や才能があったのかもしれません。
しかし、一番は音楽への情熱をずっと絶やさなかったことが、バンドでのデビューの切符を掴んだポイントではないでしょうか。
周りの言葉や世間の目に迷わず、自分の音楽を信じて進んだからこそ狭き門を通ることが出来たのだと思います。
逆に言えば、年齢を理由に諦めるようなら、結局チャンスはモノに出来ないとも言えるでしょう。
むしろ、「年齢を重ねた=経験を重ねた」と思ってしまえばいいのです。
現在は音楽を取り巻く環境も変わってきて、自主制作でクオリティの高い音源を作ることも出来ます。そこで、いままでの知識や技術、センスを生かした曲を作り、その音源をどんどん売り込むことで活路を見出せるかもしれません。
年齢を重ねたことによる若者には無い感性は曲の世界に生きるでしょうし、それは武器になるはずです。
とにかく、音楽自体を諦める必要はどこにもなく、バンドを続けることで可能性は広がっていくと思います。
それでも絶対デビューできる保証はない世界ですが、止まってしまえば可能性すらなくなってしまうのです。
今回は、筆者のこれまでのバンド経験も踏まえて書かせていただきました。
この記事が、年齢の壁に悩んでいるインディーズミュージシャン、それを応援する人達のヒントになれば幸いです。
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